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2022.02.10
コラム

質も量も!デンマークの駐輪場            

コラム監修:自転車総合研究所 所長 古倉 宗治

7年前、東京にある在日デンマーク大使館近くの書店に行った時の話ですが、到着するとなにやらざわついていたんです。何かと思い聞き耳を立てていたら、来日中のデンマーク皇太子ご夫妻がこの書店にお見えになられるとか。ちょうどその前月の2月にも同じ書店で英国のウィリアム王子がイベントに出席されている姿を見たばかりだったので、2か月連続でロイヤルファミリーを間近で見れる機会なんて一生にそうないと思い、すぐにご夫妻が通ると思われる通路脇に急ぎました。ほどなくして登場したフレデリック皇太子とメアリー皇太子妃はスラっとしたビジュアルにとても朗らかな雰囲気が印象的で今でも覚えています。私たちの前を通った時に当時まだ幼かった娘の頬を皇太子妃が撫でてくれたのもとても良い思い出となりました。

とても素敵なデンマーク皇太子ご夫妻
こちらはウィリアム王子。さすがの人気ですごい人だかりでした。
※写真上:2015年3月、写真下:2015年2月(共に代官山の某書店にて著者撮影)
 

写真のフレデリック皇太子のスーツ姿からは想像するのが難しいかもしれませんが、デンマークでは日常的に自転車に乗っておられるんです(第4回目のコラムの最後でも少し触れています)。皇太子だけでなく、デンマーク王室は王子や王女も通学に自転車を使っていて、前回のオランダと同じく、国を挙げて自転車利用を推進しています。そのため、主都のコペンハーゲンでは、サイクリングシティとしての市民の満足度は高く、10年前には既に85%を得ていました。さらにその後も上昇し続け、2016年以降は97%を維持しています(図1 ⓐ)。この満足度は驚くほど高い数字ですよね。

図1 過去10年間のコペンハーゲン市の自転車利用者の満足度(2018年)

■今後の課題は駐輪場?

一方で、コペンハーゲン市民の駐輪場に対する満足度は2018年で37%と、他の項目と比較しても低い水準です。その原因は自転車の台数が増加しているのに対して駐輪場の整備が大きく遅れているからなのです。そのため、2025年までに市民の70%が駐輪場に満足するという目標を掲げており(図1 ⓑ)、駐輪場の整備が急ピッチで進められています。実際に、コペンハーゲン市は2008年から10年間で12,400台の駐輪場を新しく設置(公共自転車駐車スペースの7%に相当)するなどして、集中的な努力を注いでいます。

■駐輪場は場所によって満足度が違う!? 駅の駐輪場は・・・?

さて、意外に低かった駐輪場の満足度ですが、コペンハーゲン市民は全ての駐輪場に不満をもっているわけではなく、設置場所によってかなり違いがあるんです。

詳細を見てみると、自宅と職場の駐輪施設に対してはそれぞれ79%、73%と、満足度は比較的高くなっています。一方で、駅とお店の駐輪施設はそれぞれ35%と27%となっていて、全体の満足度をひきさげている要因となっていることがよくわかります(図2)。

図2 コペンハーゲン市民の駐輪場に対する満足度(2018年)

この図を見ると最新(2018年)の満足度にばかり注目してしまいますが、『The Bicycle Account 2018』によると、駅の駐輪場の満足度は、2008年~2018年までの間に13%も上昇しているんだとか。これはDSB(デンマーク国鉄)などと協力して駅の改築と共に新しい駐輪場の設置を進めていることによる成果と考えられます。そしてこの傾向から見ても、今後も駅の駐輪場の満足度は上昇していくことが予測できます。

さて、ここまではコペンハーゲン市の話でしたが、デンマーク全体の駐輪場の状況はどうなっているのでしょうか。

■ デンマークの駐輪場は質が高い!

もちろんデンマーク全土でも随時、駐輪場の設置を進めていますが、需要があるから「とりあえず作る」といったことをしないのがデンマークです。『Denmark – on your bike!』にも「設置場所」「駐輪容量」「自転車盗難対策」等、利用者目線の質の高い駐輪場整備を重視していることが書かれていましたが、それがこの国の駐輪場の魅力なのです。

また、自治体だけで設置しているわけではなく、DSB(デンマーク国鉄)や自転車スーパーハイウェイの整備主体などと連携協力して駐輪場の整備を進めており、このDSBと自転車スーパーハイウェイの整備主体も費用を負担(!)してくれている点も特徴と言えます。

それでは各自治体がDSB等と共同で設置した公共交通結節点付近の駐輪場を、設置やリニューアルの際の改善点も含めて3つほど紹介したいと思います。

※ CYCLE SUPERHIGHWAY:コペンハーゲン市周辺の28の自治体とパートナーシップを組み、自治体の境を越えて通勤通学利用を促進するため2012年開業した自転車専用の高速道路。2045年までに合計45ルート、750㎞を超える高品質のルートを建設予定(COPENHAGEN CITY OF CYCLISTS2019より)

 
このコラムでは3か所の駐輪場をご紹介しましたが、自治体とDSB等が関わっている利用者目線で工夫された駐輪場は他にもたくさん設置されています。これからどんな駐輪場ができるのか気になるところなので、今後もデンマークの駐輪場設置の動向を注目していきたいと思います^^

※出典
・The Bicycle Account 2018 Copenhagen City of Cyclists, The City of Copenhagen, Technical and Environmental Administration (TMF), Mobility, May 2019,
・Denmark – on your bike! The national bicycle strategy, Ministry of Transport, July 2014
・古倉宗治『連載 欧米自転車先進諸国の自転車政策について(その191) デンマークの自転車政策(その4)』,自転車・バイク・自動車駐車場パーキングブレス, No.96 vol.676(2018年3月号),サイカパーキング株式会社,平成30年3月1日発行
・古倉宗治『連載 欧米自転車先進諸国の自転車政策について(その192) デンマークの自転車政策(その5)』,自転車・バイク・自動車駐車場パーキングブレス, No.97 vol.677(2018年4月号),サイカパーキング株式会社,平成30年4月1日発行
・コペンハーゲン市資料,「欧州における自転車政策調査団」(公益財団法人自転車駐車場整備センター主催), 2017年

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